「全部AIでOK」じゃなかった?Klarnaの事例に学ぶ、”人間らしさ”の再評価

スウェーデン発のフィンテック企業 Klarna が、カスタマーサービスにAIを導入して大きく効率化を図った…と思いきや、その後しれっと「人間」を戻し始めているという話です。

AI活用としてはかなり早くから注目されていたので「あれ?AIで全部いけるんじゃなかったの?」という違和感とともに、あらためて「 顧客体験 とは何か」を考えさせられるニュースでもあります。今日はそのあたりを掘り下げてみたいと思います。

AIだけではダメだったのか…?

Klarnaはもともと、カスタマーサービスへのAI導入をかなりアグレッシブに進めており、OpenAIのサイトにもその取り組みは掲載されています。(フルタイムの担当者700人分の仕事量をこなす Klarna の AI アシスタント | OpenAI

その結果として、AIチャットボットがフルタイム社員700人分の業務を代替し、わずか1ヶ月で230万件の対応を実現。問い合わせ解決までの時間も11分から2分未満へと大幅短縮。多言語対応、24時間365日可動と、正直「夢のような自動化」だった…はず。

ところが現在、Klarnaは再び人間のカスタマーサポート要員の採用を始めているとのことです。「AIがスピードを、そして人間が共感を提供するべきだと考えています」とのこと。

要するに「効率性だけで勝負するのはもう限界だった」ということのようです。実際にKlarnaのCEO自身も「AI偏重により 顧客体験 の品質が落ちた」ことを認めているそうです。(Klarna changes its AI tune and again recruits humans for customer service | CX Dive

なぜ今、共感や人間性が見直されるのか?

背景には、顧客側の<AI疲れ>があるようです。最近の消費者調査でも、「チャットボットが質問に答えられない」「複雑な問題を解決できない」といった不満が多数挙がっており、特に感情を伴う相談や微妙な判断が求められる場面では「やっぱり人と話したい」という声が根強いのだとか。

Five9社の調査(2025 Customer Experience Report)によると、72%の消費者がAIを活用した顧客対応に前向きですが、重要な条件として「AIが適切に対応できること」と「必要に応じて人間の担当者にスムーズに切り替えられること」が挙げられていました。

実際、私自身も日常的にAIと会話をしていますが「あ、これはAIが勘違いしたかな…」となると、そこから会話の意図をくみ取ってもらうように修正していくのに苦労したりすることも、しばしばあります。

AIはどこまで使えばいいのか?

とはいえ、KlarnaがAI活用を<やめた>わけではなく、むしろ、マーケティング部門では今もAIが大活躍中です。実際にOpenAIのサイトによると、下記のような感じで利用されているそうです。

  • Klarnaの従業員の90%が日常的にOpenAI搭載の生成AIツールを使用
  • AI導入率はコミュニケーション部門で93%、マーケティング部門で88%、法務部門で86%の導入率を達成画

「作業効率の最大化」という目的には、AIはとてもフィットしているんですよね。以前のニュースではKlarnaは人間から置き換えるような表現をしていましたが、直近のニュースだとニュアンスが変わり、「AIは置き換えではなく補強。真に優れた人間のサービスを、AIが支える存在に」とのことです。

こうした<共存戦略>は、今後の企業にとっての重要なテーマになっていく気がします。

まとめ

Klarnaのこれらの事例から見えてくるのは、「AIだけでは体験は完成しない」ということかと思っています。確かに、業務効率化やコスト削減にはAIは強力な武器。でも、「ブランドに対する好感」や「感動的なやりとり」といった部分は、人間の力が必要なのかもしれません。

以前にとある方とお話しをしていた際に、「人間がいること自体が高価値になる可能性がある」という話しをしていました。AIが優秀になったからこそ、これから考えるべきは「どこにAIを使い、どこに人を置くか」という設計力なのかと思います。

マーケティングでもカスタマーサービスでも、私たちが目指すべきは<フル自動化>ではなく、<最適な共存>なのかなと思います。

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