体験型 に移行する ロイヤリティプログラム ——「貯めて交換する」の次に何を積むか
ロイヤリティプログラム というと、多くの人が最初に思い浮かべるのは “ポイントが貯まって、割引や無料商品と交換できる” タイプじゃないでしょうか。私自身も出張先のカフェやホームセンターでアプリをインストールするたびに、、これで何個目だろう、と思ったりしています。
ただ、その “貯める→交換する” 型が業界標準になった今、そこだけでは選ばれ続けないという流れが海外を中心に強くなってきています。特にここ半年ほど、いくつかの企業が自社のロイヤリティプログラムを刷新していて、共通して積んでいるのが 「経済リワードの上に、体験を1段乗せる」 という設計です。今回は、いくつかの事例を横串で整理してみようと思います。
ポイントが飽和すると何が起きるか
まず数字から見ていくと、米小売業者の 89% が ロイヤリティプログラム を提供しているそうで(前年 79%)、「持っているかどうか」はもう差別化になっていません。もっと厳しい数字として、Brandmovers の調査 では 消費者の 49.1% が「報酬獲得に時間がかかりすぎる」と感じているそうで、さらに 入会後 2ヶ月以内に 74% の会員がエンゲージメントを失う と出ています。米国では年間 100億ドル(約 1.5 兆円)のポイントが未使用のまま眠っているというデータもあります。
飲食業界ではこの傾向がさらに濃く出ていて、レストランテクノロジー Paytronix が 2026年 レポート で「ポイントのみの ロイヤルティプログラム はレストランチェーンにとって概ね時代遅れ」と結論づけているほどです。「顧客に報いる」と謳いながら、実際には “報われない体験” を大量生産している、というのが海外の共通認識になってきている感じですね。
象徴的だったのが、Starbucks が 2026年3月に「Reimagined Starbucks Rewards」を launch したときの CEO ブライアン・ニコルの発言でした。
当初のロイヤルティは クーポン本に堕していた。割引から、エンゲージメント/パーソナライゼーション/認識(recognition)に軸足を移す必要があった。 ——CX Dive: Starbucks’ loyalty update is driving frequency as membership grows
大企業のトップが公式に “ポイント割引” 型の陳腐化を認めた、というのは、ここ数年ではあまり見なかった率直さかなと思います。
「体験」を乗せるという設計
では、ポイントの上に何を積むのか。この半年で海外事例を追いかけていると、“そのブランドでしか味わえない、金銭では代替しにくい何か” に会員としてアクセスできる 設計が共通して出てきています。誰でもお金を積めば買える体験だと差別化にならないので、ブランドの世界観の中に組み込まれていて、外に持ち出しにくいものが選ばれています。
具体的な事例を4つ、業界を跨いで見てみます。
事例1: L.L.Bean の Outdoor Discovery Programs
米アウトドア小売の L.L.Bean が 2026年8月11日に新しい ロイヤリティプログラム L.L.Bean Rewards を launch しました。経済リワードの側は 1 ポイント/1ドル・150 ポイント = $5 Bean Bucks で、実質 3.3% キャッシュバック、$50 以上で無料配送、と業界標準的な設計です。
差別化の入口として乗っているのが、L.L.Bean が長年運営している Outdoor Discovery Programs(アウトドア講座・カヤック体験・釣り講習など)への 会員 10% off。既存の Mastercard 会員なら 15% off、と有料会員ほど深く体験にアクセスできる階段構造になっています。
L.L.Bean は元々「アウトドアギアを売る小売」ではなく「アウトドアの入り口を提供する会社」というポジションを長年続けている企業なので、リワードのために新しく体験を作るのではなく、既にある体験を割引の形で会員に開いている ——という設計は、企業側の追加投資が少なく持続性が高い型じゃないでしょうか。
事例2: Home Depot Pro Xtra の “実業支援” 型
同じ体験でも、B2B 寄りに振ると別の型になります。米ホームセンター最大手 Home Depot の Pro Xtra(プロ職人向けロイヤリティ)が良い例です。
経済リワードの上に乗っているのは プロの仕事を助ける実業支援 そのもので、工具レンタルの優先アクセス、資材の一括配送、工事保険の割引、経費管理ツール、、といった 仕事のオペレーションに直接効く機能 が会員特典として設計されています。2025年には燃料割引や 7-Eleven・Jimmy John’s といったパートナー特典まで拡張されていて(Retail Dive の報道)、”仕事の日常” を丸ごとサポートしにいっている感じですね。
金銭的なお得さではなく、“プロとしての仕事の質・効率が上がる” という体験に価値を紐付けている 、しかも B2B なので個人向けリワードの数百円レベルではなく 年間で数十万円単位の経費・時間削減インパクト を持ちます。個人リワードでは太刀打ちできない差別化になっていますよね。
事例3: Sephora Beauty Insider のティア型体験
ビューティー小売の Sephora Beauty は 4,600万会員・売上の 80% をロイヤリティ会員経由で作っている巨大プログラムですが、ここでも中核は “体験” です。
ティアが上がるほどアクセスできる体験の深さが増える設計で、上位ティアではメイクアップアーティストによる プライベート・メイクアップセッション や、新製品の ローンチ前先行トライアル、ブランド公認のワークショップへの招待、といった “Sephora の店舗で美容の世界に浸る体験” が階段状に開かれていきます(Forbes: Why 30% of Sephora’s 46 Million Loyalty Members Now Play Games to Shop)。
上位会員にとってはこれが “自己表現の場” になり、「Sephora の会員だから、こういう世界に触れられる」というアイデンティティの一部にまで変わっていく。ここまで来ると 経済リワードでは代替できない領域 で、ポイント経済の延長では作れないロイヤリティになっていますよね。
事例4: OpenTable Gold Tables——「予約が取れない席」を報酬にする
個人的に、今回並べた事例の中で “体験型” という概念を最も純粋に体現していると感じたのが、レストラン予約プラットフォームの OpenTable が 2026年7月8日に発表した Gold Tables です。
前12ヶ月で 6 回の予約を実来店(no-show なし)で消化した Gold ステータス会員 に、全米50都市の 500以上の “予約が取れない人気店” の枠を優先開放 する仕組みで、Soothr(NYC)/ Elena’s(SF)/ Saffy’s(LA)/ Fiorella(フィラデルフィア)/ Esme(シカゴ)といった、予約サイトで枠を見ても常に埋まっているクラスの店が並んでいます。
面白いのが、報酬の “通貨” がポイントでも割引でもなく、”アクセスそのもの” に切り替わっている点です。コメントを寄せた Guestologie CEO Ryan Volberg の言い回しがとてもきれいでした(CX Dive の報道 より)。
“Experiences create emotional loyalty and advocates. Discounts often create shoppers.” ——体験は感情的なロイヤルティとアドボケイターを生む。割引はしばしば “買い物客” を生むだけだ。
先ほどの Starbucks CEO の「クーポン本に堕していた」と並べると、“割引で買い物客を作るのか、体験で信奉者を作るのか” という業界共通の問いが立ち上がってきている感じがしますよね。
もう一つ唸ったのが 模倣困難性の高さ で、予約枠を横断的に押さえられるのは OpenTable にしかできず、原価はほぼゼロ(枠を先に渡すだけ)、レストラン側にも歓迎される(Gold 会員は no-show 率が非 Gold の 50% 低い・レビュー投稿は 3倍というデータが公式にあります)。プラットフォームの一次プロダクトそのものが、ロイヤルティ通貨に化ける という気づきは、EC・チケット販売・宿泊予約など他のプラットフォーム型ビジネスにも横展開できる論点じゃないかと思います。
業界の日常構造に沿って個別化される
4つ並べてみると、体験の中身は業界によって全然違うんですよね。アウトドアなら “自然への関与”、ホームセンターなら “仕事の質”、ビューティーなら “自己表現の場”、レストラン予約なら “取れないはずの席”。ポイントは業界を超えて画一化していたわけですが、次の1段は業界固有の “その業界ならでは” の体験に落ちる 。逆にいえば、ここで自社の業界の顧客の日常構造を読み違えると、体験を積んでも刺さらない、ということが起きそうです。

まとめ
ということで、ここ半年の海外事例をまとめると、以下のような整理になりそうです。
- ポイント経済は業界標準として 確保する ものだが、そこで 差別化する ものではなくなってきた
- 次の1段として ブランド固有の非経済的な体験 を経済リワードの上に乗せる動きが、業界を跨いで共通のパターンになりつつある
- 体験の中身は業界の顧客の日常構造に沿って個別化される(既にある体験資産を会員向けに開く設計は、追加投資が少なく持続性が高い)
日本でもロイヤリティプログラムの再設計を検討している企業は増えている印象があります。ポイントの原資を厚くするより、自社が既に持っている非経済的な資産を、どう会員体験として開くか を先に議論してみるのが、次の1段を積む際の入り口としてはやりやすいのかなと思っています。
自社のロイヤリティプログラムを見直す際、業界の顧客の日常構造をどう読み解いて、どういう体験を積むかについて壁打ちが必要な方は、お問い合わせ 頂ければ、こちらでも考えている整理を共有できると思います。
「意味」(顧客の意思を寄付先などの意思決定に組み込む型)や「行動」(早く小さく報う設計)といった次の階段については、また機会があれば触れてみます。