AI を「使う人」を 組織 はどう評価するか?北米12社に見る4つの形
ここ1〜2週間、北米のエンタープライズ企業が「 AI 活用の 組織 における社内評価」に関するニュースを立て続けに出していて、ちょっと面白い風景が見えてきました。
Duolingoは「AI活用は人事評価に入れない」と言い、JPMorganは「パフォーマンスレビューに正式に組み込む」と言い、Shopifyは「AIにできないと証明しない限り採用しない」と言う。同じ「AIを組織にどう根付かせるか」という問いに、答えがバラバラなんです。
せっかくなので少し整理をしてみました。
4つの AI 活用評価アプローチ
型1: 成果ベース——使い方は問わず、結果で見る
DuolingoやGoldman Sachsがこのタイプ。Duolingoでは、チェス未経験の社員2人がAIでチェスコースを開発し、毎日700万人が使うプロダクトに育ちました。CEOは「AIを使うためにAIを使う状態は避けたい」と明言していて、評価はあくまで成果物の質としています。
Goldman SachsのCIOは46,000名以上にAIアシスタントを全社展開しつつも、「AIの課題はモデル能力ではなくワークフローの再設計」と、成果に至るプロセス設計を重視しているようです。
型2: 可視化ベース——測るけど、評価には直結させない
DisneyやAmazonがここに該当します。Disneyは、ClaudeやCursorの利用をトークン数とリクエスト数でダッシュボード化しているそうです。「誰がどれだけ使っているか」が見える状態を作りつつ、それ自体を評価には使わないという感じです。
ただしAmazonでは一部のエンジニアから「監視されているようだ」という抵抗も出ていて、可視化の「見せ方」が組織文化に合わないと逆効果になるのが難しいところのようです。
型3: 評価連動ベース——人事制度に組み込む
JPMorganは65,000名のエンジニアをlight/heavy/non-userに分類し、2026年3月からパフォーマンスレビューに正式に組み込みました。
Metaも全従業員の評価に「AI-driven impact」を導入。社内で従業員が自発的に作った「Claudeonomics」というトークン使用量ランキングでは、30日間で全社60兆トークン、個人トップが2,810億トークンという驚異的な数字が可視化されましたが、外部流出リスクで閉鎖されています。
中堅市場向けのコンサルティング・会計ファームであるGrant Thorntonはさらに踏み込んで、パートナーのボーナスをAI活用度に直結させるところまで実施しています。
型4: 前提化ベース——使うのが当たり前
ShopifyのCEOが「AIにできないことを証明しない限り新規採用は認めない」と全社通達したのは2025年4月。Googleはコードの75%がAI生成で、もはや人間がレビュアー側に回っている。AIを「使うかどうか」の議論自体がないような感じもあるようです。
何が今正解なのか? 組織 の成熟度に応じた4段階の移行モデル
こうして並べてみると、どれが正解かというより「組織のフェーズによって最適解が変わる」のかなと思っています。個人的には、こういう順序がいいんじゃないかと思っています。
flowchart LR
A["導入期<br/>評価連動<br/>JPMorgan型<br/>「まず触る」"] --> B["浸透期<br/>可視化<br/>Disney型<br/>「質を上げる」"]
B --> C["定着期<br/>成果ベース<br/>Duolingo型<br/>「成果で測る」"]
C --> D["成熟期<br/>前提化<br/>Shopify型<br/>「当然の前提」"]
classDef gray fill:#e5e7eb,stroke:#6b7280,color:#1f2937
class A,B,C,D gray最初は「評価に入れる」
AIに触ったことがない人が組織の大半だった場合、「成果で見る」と言っても、そもそもAIを使った成果の出し方がわからない。
まずは「使ってみる経験」を全員に積ませるフェーズが必要で、そのためには評価制度でインセンティブをつけるのが現実的です。JPMorganやMetaのアプローチはこのフェーズに向いる気がします。
量を競うことが目的に
ただし、使用量を追い続けると「AIのためにAI」が起きるのではと思っています。Metaの60兆トークンは印象的ですが、その全部が生産的だったかは怪しいものもあると思います。リーダーボードが閉鎖されたのも、量を競うこと自体が目的化したからだと推測されます。
Amazonでの「監視されている」という声も、利用量追跡が永続化するとこうなるのかなとも思っています。
組織全体が「 AI を触ったら」成果ベースへ
DuolingoのCEOが「AIを使うためにAIを使う状態を避けたい」と語った背景には、Duolingoがすでに全員がAIを使い慣れた組織だからこそ言える余裕があるのではと思います。
このように成熟度に合わせた対応というのが組織側にも求められるわけです。
- 導入期:評価連動で「まず触る」を促す
- 浸透期:可視化で全体の状況を把握しつつ、使い方の質を上げる
- 定着期:評価からAI利用を外し、成果で測る
- 成熟期:AIが前提の組織文化になる
Goldman SachsのCIOが「AIの課題はモデル能力ではなく、ワークフローの再設計だ」と言っていましたが、これもまさに浸透期〜定着期の課題ですよね。
ツールは入った、でもワークフローが変わっていない。McKinseyの調査ではワークフローを端から端まで再設計した企業はまだ全体の21%。大半の組織は「導入期→浸透期」の間で止まっているようです。
日本の 組織 が考えるべきこと
日本の多くの企業は、おそらく「導入期」か「導入期以前」にいます。ワークショップ等でお伺いすると、まだAIに触ったことすらない社員が過半数という組織も珍しくないと感じています。
その段階でいきなりShopify型(前提化)やDuolingo型(成果ベース)を目指すのは現実的ではないと思います。
まずはJPMorgan型で「触るインセンティブ」を作り、Disney型で「全体を見渡せるダッシュボード」を整え、そこから徐々に成果評価に移行していく。これが現実的な道筋だと思います。
まとめ
自社の組織は今、どのフェーズにいるでしょうか。そして、評価制度はそのフェーズに合っていますか。
Walmartが従業員トレーニングに10億ドルを投じ、Gartnerが「AI人材不足に9割の組織が直面する」と予測する中で、「AIを使わせる」か「AIで成果を出させる」かの判断は、恐らく今年中に多くの企業が迫られることになると思います。
「使い方」を評価するのは一時的な手段。「何を生み出したか」を評価するのが本来のゴール。でもその間には、組織全体がAIと一緒に仕事をする経験を積む時間が必要というのが、各社の事例を眺めながら見えてきました。