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結局どこから手をつければいいの?─顧客体験を全体設計するための考え方

最近、あるクライアントとのアセスメントで「 顧客体験 って、具体的にどこから改善すればいいんでしょう?」という質問を受けました。カスタマーエクスペリエンス(CX:Customer Experience)という言葉が定着してきた一方で、それをどう設計し、実行していくかとなると、多くの企業がもやもやを抱えている印象があります。

特に大きな組織だと、部署ごとに取り組みがバラバラで「結局、全体として何を目指してるのか」が見えづらくなってしまうことも。冒頭の質問をきっかけに改めて考えてみると「これが整っている会社は、やっぱり強いな」と感じる共通ポイントがいくつかありました。

体験設計の出発点は“ビジョン”

やっぱり最初に必要なのは、「どんな体験を顧客に届けたいのか」という明確な方針です。この部分が曖昧なままだと、どんなに機能やチャネルを整備してもバラバラになってしまいます。逆に「私たちは、こういう瞬間にお客様を支えたい」といった指針があると、部門横断でも一貫性が出てくるんですよね。

例えば、ただ「顧客満足を高めたい」ではなく

  • 初回接点での安心感を徹底する
  • 問題発生時に“頼れる存在”だと思われる
  • 購買後の体験でストーリーを提供できる

といった具体的な方向性を描いている企業は、全体として体験の質が高くなってきます。

顧客理解を“なんとなく”にしない

次に大事なのは、顧客を感覚で語らないこと。調査データ、行動ログ、顧客の声(アンケート、SNS、レビューなど)を元に、「何に困っているのか」「どこで離脱するのか」といった情報をきちんと把握する。この積み重ねが、的確な体験設計の土台になります。

もちろん、「全データを完璧に揃える」必要はないと思っていて、むしろ大事なのは仮説を持ってデータを読み解く力なんじゃないかと思っています。

ビジョンをもった上で、そこと現状の顧客体験がどのように乖離しているのか、それをどんなデータで補強していくの、軸があることでそこの乖離もより見やすくなってきます。

また、1部門だけでうんうん検討するよりも、様々な接点の担当者とディスカッションやワークショップをすることで、その理解を多面的にしていくことにも繋がったります。

“少し先回り”が、信頼を生む

実際にパーソナライズされたコミュニケーションといっても色々とあります。既にに実施しています!という会社でも、実際にやっているのは顧客の属性に合わせたプロモーションの告知のみ、、といったことも少なくありません。

しかし、それではパーソナライズコミュニケーションを実施していても、顧客体験とは程遠いものとなってしまいます。そんな中、いま求められているのは、「丁寧な対応」よりも「少しだけ先回りした提案」かなと思っています。

例えば下記のような感じ

  • 「そろそろ定期点検の時期ですね」といった通知
  • 「以前ご購入の〇〇、そろそろリフィルはいかがですか?」という提案
  • 「ログインできていないようですが、何かお困りですか?」というチャットサポートの声かけ

仰々しい予測なんて必要なく、顧客の状況に合わせてちょっとだけ先回りする感じ。こうしたアクションが、いまのCXでは大きな差別化要因になってきます。ポイントは、「やりすぎないこと」。過剰なパーソナライズではなく、顧客が「自分のことをわかってくれている」と感じるちょうどいい距離感を保つことが重要です。

技術は“滑走路”でしかない

AIはもちろんのこと、MAツール、CRM、CDPなどコミュニケーションに利用する様々なプラットフォームがあります。最近のマーケティング・CX領域はテクノロジーがどんどん進化していますが、それ自体が「体験」を提供するわけではありません。

重要なのは、それらをどう使って、

  • 情報をつなぎ、
  • 顧客ごとのニーズを理解し、
  • スムーズな体験につなげるか。

つまり、技術は「飛行機」ではなく「滑走路」なんですよね。そこに人やサービスという“飛行機”が乗って、ようやく顧客体験が飛び立つわけです。

社内の“巻き込み力”がすべてを左右する

CXを本気でやろうとすると、マーケティング部門だけでは限界があります。カスタマーサポート、営業、開発、店舗スタッフなどなど、あらゆる接点での体験を整えていくには、全社的な意識と協力が不可欠だったりします。特にここ数年においてはチャネルを横断した一貫したコミュニケーションが当たり前に求められる中において、全社的な顧客対応は重要になってきます。

その為、最近ではCXを担うチームが「社内向けの啓発活動」をがんばっているケースも増えてきています。例えば下記のような感じ。

  • カスタマージャーニーワークショップを部門横断で実施してみる
  • 顧客の声を社内にシェアする“ボイス・オブ・カスタマー”の定期便をつくる
  • 顧客課題の棚卸しを部門横断でディスカッションしてみる

こうした動きが、じわじわと“顧客目線”を社内文化として浸透させていくんですよね。

測って、学んで、改善していく

CXって「一度設計したら終わり」ではなく、ずっとアップデートし続けるものです。だからこそ、数値で見る視点も重要。

とはいえ<これ>といった絶対的なCX評価指標はあるわけではないので、満足度(CSAT)や推奨意向(NPS)、離脱率、リピート率など、目的に応じてKPIを定めて追いかけることが、学習と改善のサイクルを生み出します。

ここに、“どう投資対効果(ROI)を説明するか”という話も絡んできますが、それはまた別の機会にでも。ちなみに先日、ブログに書いたDBS銀行のデジタルを利用した 顧客体験 への取り組み | dIG iT では、部門横断でジャーニーごとにグループを作ったうえで、従業員体験も含めてKPIを設定していたりもします。

おわりに

結局のところ、CXを本気で改善するには「今、どこに取り組んでいて、何が欠けているのか」を全体像として俯瞰する視点が不可欠です。

  • 体験のビジョンはあるか?
  • 顧客理解は“なんとなく”になっていないか?
  • テクノロジーは“体験”につながっているか?
  • 社内文化として根づいているか?
  • 継続的に測定・改善する仕組みがあるか?

このあたりを問いかけてみるだけでも、次に何をすべきかが見えてくると思います。CX戦略って、壮大ではあるけれど、「小さな問いかけと一歩」から動き始めるものでもあります。読んでくださった方の頭の中でも、少し何かが整理されたり、動き出したら嬉しいです。

Nudge Experience合同会社では、このような取り組みについてデジタルの顧客体験の取り組みについて成熟度調査として自社独自のフレームワークを利用して評価をし進めるお手伝いもしております。ご興味があればお気軽にお問い合わせ頂ければと思います。

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顧客体験の設計にお悩みがあれば、お気軽にご連絡ください。